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はじめに

 厚生労働省によると、2003年に25000人いたホームレスは、2012年には1万人まで減少した。
1億分の1万、約0.1%これが現在日本のホームレス人口である。一方でこの数字に関して、ホームレス支援活動をされている方々や地方職員によると、厚生労働省の数字の約二倍近くの数が実際のホームレス人口ではないかというものもいる。
ちなみに法の下
[1]でのホームレスとは都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者たちのことである。
2002年に樹立されたホームレスの自立の支援等に関する特別措置法、通称、ホームレス自立支援法のもとに国策として就労支援、宿泊事業、職業生活相談、地域生活移行支援事業などを展開し、確かに一部では実際の減少傾向をみても機能しているといえよう。ただ彼らの根っこにある部分に触れるにはやはり法律や国策だけでは不十分であろう。



[1] 2002年樹立したホームレス自立支援法を指す。

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ホームレスの生活~新宿中央公園の二人組~

2012年12月某日、世間は今年一年で出会った人々に、お世話になった方々に感謝の言葉を交わし、2013年を新たな気持ちで迎えようと日本国民が次年というひとつのベクトルを向いていた。
そんな中、巨大な高層ビルに囲まれている異空間の中で時代に取り残されたまま、生きることに誇りをかけた者たちに触れた。路上生活者、ホームレス。日本社会に見放され、世間の冷たい目を受けながら、生きていく人たちだ。 

 
 凛とした冬の寒さ、澄んだ空気の匂い、優しい木漏れ日に包まれた冬朝の新宿中央公園。周りにはまるで防壁のように都庁ビルをはじめとする大企業の高層ビルが立ち並ぶ。そんな中に時代に取り残された者たちがポツンと暮らしている。


 今回私が多くの時間を共有したのは、ホームレスを名乗る本庄さん(仮)とそのオヤブンである。本庄さんは今年で
54歳、オヤブンは72歳を迎える。本庄さんは長い髪にトレードマークの紺色のハンチング帽をかぶり競馬の500回記念大会でジョッキーのサイン入りジャンパーを羽織っている。笑った時に本当にいい皺ができる。オヤブンは「わかるけ?わかるよな?」が口癖の20年以上ホームレスをやっているその道のプロ。

 笑った時にみえるボロボロの歯が愛らしい。二人はいつも朝からカップ酒を片手に難しい顔や、屈託のない笑顔を並べかたりあっている。初めて彼らにあった日も、二人はピースを吹かしながらカップ酒を片手に語り合っていた。日本のこと、政治のこと、歴史のこと、天皇のこと、右左翼のこと、そして女のこと、生きるということ。話題は尽きない。

 二人がそもそもホームレスになったきっかけは社会復帰が上手くできなかったからである。ホームレスのほとんどはそもそも低賃金の不安定な労働に就いて、元々不景気に弱い人々である。一昔前なら失業してもなんとか日雇労働者として働くことができた。しかしここ数年間寄せ場(青空労働市場)がほとんど機能しなくなってしまったため、多くの元日雇労働者はホームレスになっている。

 また、景気のいい時代なら日雇労働者として踏みとどまることのできた底辺労働者が直接ホームレスになっているケースも多い。つまり社会的要因によるものだ。実際に私が中央公園に通っている期間にも何度か元日雇い労働者のデモが都庁前で行われていた。テレビの特集などで安定したサラリーマンが何らかの理由で社会から疎外され、個人的な理由でホームレスになるケースは少ない。


 話を二人に戻そう。本庄さんの主な収入はビッグイシューの売上によるものだ。
ビッグイシューとは
1991年にロンドンで生まれ、日本では20039月に創刊された、ホームレスへ仕事を提供し自立を応援する事業のことだ。仕事内容としては、雑誌の販売である。10冊無料提供された雑誌を駅前などで300円で販売する。販売利益で自ら1140円で雑誌を仕入れ同じく300円で販売し、純利益160円は自分の手元に入るという仕組みである。ただ、本庄さんは10冊売るのに十数時間も使い、その日に得る収益は1600円では効率的じゃないよなー、と笑いながらおっしゃっていた。

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 また、彼には、彼なりの売れる工夫がある。売り場にプーさんとチョッパーのぬいぐるみを飾るのだ。
本庄さんはいう、「ホームレスが雑誌販売をしても多くの人は無視するのが当たり前だろ。だから俺はこいつらの力を借りて少しでも話かけやすくするんだよ。あと、買ってくれた人にはまたお願いします。この一言でリピーターになってもらうんだよ。」と。

 そんな彼のエスニックのリュック-ほぼ新品なのに拾いものだそうだ-には常時、商売道具としてプーさんとチョッパーのぬいぐるみが眠っている。ちなみにプーさんのぬいぐるみはたまに中央公園で行われるフリーマーケットにて、
500円で購入されたそうだ。その500円を食費に使いなよとツッコミをいれたのは言うまでもない。

 一方オヤブンは、雑誌販売を行えるほど健康な体ではない、彼は数年前から足腰が弱り、歩くのが精一杯の状態である。だからオヤブンは、周りの支えで生活している。
例えば、
NPO法人新宿連絡会、新宿中央公園にて毎週日曜日に行う炊き出しを始め、パトロールや医療相談なども行う支援団体である。また、先ほど述べた国の支援、新宿区役所では、シャワールームの無料提供や衣類提供、審査はあるが就労支援として現金支給などを行っている。
さらに、中央公園にはコミュニティがあり、食料などの共有を行っている―実際、私も味噌汁缶をいただいた。―

 
このようにひとえにホームレスと言っても生活方法は多岐に渡る。本庄さんやオヤブンは、「新宿中央公園で暮らしていくのは、そんなに難しくない。もちろん大変だけどな。他人と話すことのできない、都庁前や近くのトンネルで暮らしている人たちの方が苦しい生活を強いられる。あいつらは本当にきついと思うぞ。」と。―都庁付近にはホームレスが公園外にもいるのである。―

 

年末年始の新宿中央公園

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 1229日、新宿中央公園にいつも穏やかさは消えていた。
活気-この二文字だけがいつもの新宿中央公園内を飛び交っていた。日本を賑わせた元プロレスラー、アントニオ猪木氏をはじめとするファイターたちが炊き出しを行っていたからだ。

 アントニオ猪木氏は
2001年より12年間、この新宿中央公園で炊き出しをしている。今年は1000人近くの路上生活者が集まった。新聞や雑誌、インターネットのニュースにも取り上げられる恒例行事だ。常套文句、「元気ですかー!」の代わりに、猪木の魂の叫びで「みんな、生きてるかー!!」「来年はここにいるなよ!」と彼のマイクパフォーマンスと活気という二文字がホームレスたちの心を打つ。

 紛れもなく昭和のヒーローがそこにはいた。余談ではあるが、本庄さんとオヤブンに後日伺った話によると、昔は、猪木にビンタされるホームレスが多かったが、今やられたらみんな気合注入じゃなくて死相注入になっちゃうよ。と冗談交じりに思わず溢れた笑みがそこにはあった。

 年始には先ほど出た新宿連絡会が炊き出しを行い、本庄さんやオヤブンたちも静かに流れるお正月を過ごしていた。そこには異空間で非日常を尊く享受する者たちがいた。
4日を過ぎると、彼らは元の「路上生活」へと戻っていく。新宿中央公園もいつもの姿に。別れ際、中央公園に集まっていた彼らは「今年も生き延びるぞ。」と仲間たちと握手をかわした。散り散りに公園を去る彼らの後ろ姿は、冬の空に物寂しさと刹那の生の影を落としていた。

 

死がいつもみている-7人の死-

新宿中央公園に遺影が並べられた。新宿界隈で亡くなったホームレス7人の遺影だ。凍死。事故。自殺。他殺。数にするとこんなにも小さな死である。彼らの多くは親族がわからない無縁仏。
本庄さんは言う、「毎年何人か逝っちまう。中には知っている顔もある。でもな、いちいち悲しんでいられねーんだよな。ただ息をしているだけだったら死んでいるのと同じだよ。明日になったら、飯のことや酒のことを考えちまうんだ。人間は薄情だな。」私は黙ることしかできなかった。
いつもは穏やかな本庄さんの目が死への畏怖を物語っている気がした。


本庄さんやオヤブンのように社会的要因で路上生活を強いられたもの。日本社会に守られるのが嫌いになり自らを「自由な」環境に置くもの。理由は本当に多岐に渡る。いろいろなホームレスがいる-正直に言ってしまえば、この方はなるべくしてなった方だなと思うときもあった。-


私は、ホームレス問題を考えて欲しい、社会問題に取り組んで欲しい、こんなにかわいそうな人たちがいるのだから頑張って生きて欲しいなど言うつもりはない。

ただ、ひとつ確かなのは、彼らは生きることに誰よりも必死だ。そして死を尊ぶ心を誰よりももっている。生と死が彼らの唯一無二の職業。路上生活者、ホームレス。

 

おわりに

「乞食やホームレスは全員原発に送れよ。」

「とりあえず公園は住むとこじゃねぇからな。日本のゴミ。」

「(ホームレスは)排除されて当たり前。 区民が安心して遊べる公園にしろ。」

「ホームレス リンチ死。」

日本の電子掲示板には、ホームレスたちに向けられた暴力的な言葉が日々飛び交う。言論の自由。
毎年何人かの何十人かのホームレスが誰かに殺される。アソビで。


私の好きな映画、スクラップヘブンに、「世の中痛みを想像できないバカばっかりなんだよ。」というセリフがある。道端に生活している汚らしいホームレス。日本では少ないが物乞いをするホームレス。駅で寝ている臭いホームレス。紛れもなく路上生活者、ホームレス。彼らが向ける刃、彼らに向けられている刃。その矛先にはなにがあるのだろうか。

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ホームレス中学生 [ 田村裕 ]
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